AIを企業に導入するとき、国の動きにも目を向けていますか?

実践から理論へ、そして再び経営の現場へ。VURA Capitalの取り組み
AIをどこから調達するか。どの業務で使うか。どのように成果を測るか。
企業でAIを導入するとき、こうした問いについて議論する機会は多いと思います。そこに、もう一つ加えたい問いがあります。
「その選択は、国の政策や国際関係が変わっても、続けられるでしょうか。」
少し大きな話に聞こえるかもしれません。しかし、使うAIの提供元、データを置く場所、サービスを届ける市場まで考えると、企業の判断と国の動きはつながっています。
VURA Capitalは、このつながりを経営の実践から考え、書籍や論文として整理してきました。2026年9月8日には、こうした知見を活かした、成果報酬型の経営参画に関するプレスリリースを公開しました。
今回は、その背景にある問題意識と、実践から理論を生み、再び実践へ戻していく私たちの取り組みをご紹介します。
企業のAI活用を、少し外側から見てみる
AI導入の議論では、モデルの性能や利用料金、業務の効率化に目が向きやすくなります。もちろん、いずれも大切です。ただ、経営として考えるときには、利用を支える条件まで視野を広げる必要があると私たちは考えています。
例えば、海外のAIサービスを中核に据えて、新しい事業を立ち上げる場面を想像してみてください。
そのサービスを継続的に利用できることが、事業計画の前提になります。顧客のデータを扱えること、必要な計算資源を確保できること、提供先の市場でサービスを運営できることも同様です。
もし、その条件が変わったらどうなるでしょうか。別の基盤へ移れるのか。顧客への提供を続けられるのか。追加の費用や時間を、どこまで吸収できるのか。
ここで必要になるのが、経済と安全保障、国際政治のつながりを捉える「地経学」の視点です。自社の事業がどの国の技術や制度、供給構造に支えられているかを把握することは、経営判断の前提を確認することでもあります。
すべての国の動きを追い切る必要はありません。まずは、自社が何に依存しているのか、その条件が変わると何が起きるのかを整理する。それだけでも、AI投資の見え方は変わってきます。
出発点は、実践のなかで生まれた問い
私たちの研究は、経営や事業づくりの現場で生まれる問いから始まります。
同じAIを競合も使えるなら、自社の強みはどこに残るのか。外部の技術を活用しながら、社内には何を蓄積すべきか。新しいサービスをつくった先に、継続して価値を生む仕組みをどう育てるのか。
現場では、こうした問いに、限られた情報と時間のなかで向き合います。一つの判断がうまくいったとしても、なぜうまくいったのか、別の企業でも成り立つのかまでは、すぐにわからないことがあります。
そこで、経験したことを言葉にし、前提や因果関係を整理する。書籍として体系化し、論文としてさらに掘り下げる。世界の研究と照らし合わせることで、既存の知見と重なる部分、自分たちならではの視点、まだ説明できていない部分を確かめていきます。
大切にしたいのは、自分たちの経験を、そのまま一般的な答えにしないことです。経験を出発点にしながら、異なる説明や反例にも目を向ける。その過程で、次の経営判断に使える考え方へと磨いていきたいと思っています。
AIファウンドリーモデルから、国家の価値モデルへ
今回の研究の出発点の一つが、「AIファウンドリーモデル」です。
VURA Capitalがこのモデルで考えているのは、外部から調達した最先端のAIを、産業固有の知識や信頼の仕組みなどと組み合わせ、実際に運用できるシステムとして提供する価値です。
例えば、製造の現場でAIを使うとします。モデルの性能に加え、設備の特性、品質の基準、例外が起きたときの判断、現場の役割分担まで組み合わせて、初めて業務のなかで使えるようになります。
医療や金融、物流などを考える場合も、それぞれの分野に必要な知識や運用条件を踏まえることが欠かせません。AIを現場の価値へと変換する過程そのものに、蓄積できる能力や事業機会があるのではないか。これが、私たちの問いです。
この視点を企業から国へ広げると、新しい問いが見えてきます。
最先端AIの開発を主導する国以外は、どのように価値を生めるのか。自国に蓄積された産業の知識や人材、制度、信頼を、AIとどう組み合わせるのか。外部の技術を利用しながら、どのように自らの強みを育てるのか。
こうして、AIファウンドリーモデルから、国家がAI時代に価値を生む構造を考える「国家価値モデル」へと、研究の視野を広げてきました。
国の位置を捉え、企業の選択肢を考える
国家価値モデルでは、AIを生み出すこと、製品やサービスへ変換すること、産業や社会で活用することに着目しています。
さらに、AI能力の階層を組み合わせて、「9つの国家価値セル」として整理しました。将来の可能性として扱う領域も含む、研究上の枠組みです。
この整理で目指しているのは、それぞれの国がどこで価値を生み、何を外部に依存し、どのような関係を築いているのかを考えやすくすることです。国力の順位表として扱うものではありません。
また、一つの国を一つの位置に固定することも避けています。国のなかには多様な産業や企業があり、主たる位置と、それを補う位置があるからです。
企業にとっては、自国や取引先の国が持つ基盤や制約を、自社の戦略にどう織り込むかが論点になります。どこで事業を展開するか、どこから技術を調達するか、誰と組むか。国家の構造を読むことが、こうした具体的な選択につながっていきます。
ただし、国の特徴だけで、個別企業の競争力が決まるわけではありません。同じ国にある企業でも、顧客、技術、供給網、蓄積してきた能力は異なります。その違いを捉えるために、研究をもう一度、企業のレベルへと戻しました。

国家価値モデルから、企業価値モデルへ
企業価値モデルでは、企業が価値を生む位置、顧客や取引先との関係、内部に蓄積する能力、そして資源配分をつなげて考えます。
例えば、ある企業が優れたAIサービスを提供しているとしても、その事実だけでは、将来の収益力まではわかりません。顧客が他社へ簡単に移れるのか。重要な技術や販路を外部に依存しているのか。利用が増えるほど、知識や信頼が自社に蓄積されるのか。こうした違いを確認する必要があります。
ここで私たちが重視するのが、「企業脳資本(Enterprise Brain Capital)」です。企業固有の知識、判断力、協働能力など、外部から購入するだけでは短期に再現しにくい内部の蓄積を指しています。
顧客が本当に困っていることを見抜く力。例外的な状況でも、品質や安全を踏まえて判断する力。部門を越えて、実行につなげる力。AIを使った経験を、次の仕事に活かせる形で組織に残す力。
こうした能力を、AIと組み合わせてどう育てていくか。それが、導入後の価値創造を考えるうえで大切な問いになります。
研究では、世界主要31社の公開情報を用いて、枠組みの適用可能性と限界を検討しました。公開情報で把握できる範囲を意識しながら、企業ごとの違いを説明するための手がかりを探っています。

世界の研究と比べ、自分たちの視点を確かめる
実践から生まれた考えを研究として深める際には、世界の論文などと比較する過程を大切にしています。
すでに説明されていることは何か。自分たちの考えは、どの議論につながるのか。異なるのは用語なのか、見る対象なのか、それとも関係の捉え方なのか。
こうした点を確かめることによって、自分たちならではの視点も、より具体的になります。独自性は、新しい名前を付けることだけで生まれるものではないと考えています。
今回、私たちが掘り下げているのは、国家が企業に与える条件と、企業の価値創造、交渉力、内部能力、投資判断をつなげて捉えることです。国の話を経営の話へ、経営の問いを再び国の構造へと往復することで、見えてくる関係があります。
同時に、理論には適用できる範囲があります。すべての企業を同じ枠組みだけで説明できるわけではありません。研究途上の考え方を公開し、議論や検証を通じて修正していく姿勢も、この取り組みの一部です。
そのための場として、VURA Working Paper Seriesをオープンアクセスで公開しています。
理論を、次の経営判断へ戻す
考え方を整理した後に、私たちが戻るのは経営の現場です。
どの事業に取り組むのか。何を自社に残し、どこを外部と組むのか。どの人材を採用し、どの能力を育てるのか。限られた資金と時間を、どこへ振り向けるのか。
例えば、特定のAI基盤への依存が大きいとわかった場合、すぐに全面的な内製化を選ぶ必要があるとは限りません。データや業務知識を自社に蓄積する、別の基盤への移行可能性を確認する、投資を段階的に進めるなど、複数の対応を比較できます。
また、AIの将来についても、一つの予測だけに事業計画を委ねないようにします。利用が広がる場合、分断やアクセス制約が強まる場合、能力向上が鈍化する場合。それぞれを考え、共通して進める意味がある施策と、条件を見極めながら進める施策を分けます。
理論の役割は、判断に必要な問いを明らかにし、選択肢や前提を比較しやすくすることにあります。実行後に何が起きたかを確かめることで、経営判断と理論の両方を見直していきます。

リスクと成果を共有し、経営に参画する
VURA Capitalは、こうした知見を活かし、経営陣とともに事業の立ち上げや運営を担う経営参画を進めています。
企業ごとの課題に応じて、役割、権限、関与範囲を合意し、組織づくり、新サービス開発、アライアンス、営業・デリバリーなど、担当領域の実行に取り組みます。
案件に応じて、利益創出や合意した成果に連動する報酬を組み合わせ、事業の成果と私たちの対価を結び付けます。成果指標や負担範囲、報酬条件は、個別に設計します。
経営の現場で判断し、自ら動くことで、新たな問いが生まれます。その問いを再び整理し、研究として深め、次の実践に活かす。この循環を続けることが、私たちの活動の中心にあります。
今回の知見は、『AI時代の国家価値モデル』全3巻と『AI時代の企業価値モデル』全4巻にもまとめました。日本語・英語それぞれ7巻、計14冊で展開しています。
AIを企業に導入するとき、国の動きにも目を向けてみる。そして、その大きな視点を、自社の顧客、組織、事業の判断へと戻してみる。
VURA Capitalは、実践と研究を往復しながら、未来価値を生み続ける企業づくりに取り組んでいきます。
今回の取り組みの詳細は、以下のプレスリリースからご覧いただけます。


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