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第026章 VURA Future Index(VFI)とは?

未来価値は、測れるのか。第III巻 023で、私たちは Future Value(未来価値)を「まだ存在していない価値を創造する能力そのもの」と定義した。定義を置いたなら、次に問われるのは測定である。測れない目的は、掲げられはしても、運用されないからである。本章が扱うのはVURA Future Index(VFI)である。VFI とは、企業の現在価値ではなく、未来価値創造能力を評価するための指標である。ただし本章の役割は、指標を完成させることではない。何を測り、何を測らないかを決めることである。指標の設計は、測定の技術ではない。経営の思想である。

1 なぜ、いまこの問いが立つのか

定義しただけでは、経営は動かない。経営は、測定を通じて動く。

企業の中で実際に人を動かしているのは、理念ではなく指標である。何が測られ、何が会議に並び、何が評価されるか。それが日々の判断を決める。したがって、未来価値を経営の中心に置くという主張は、測定の話まで届かなければ標語にとどまる。

023では、定義の対象を一段ずらした。まだない価値ではなく、それを生み出す側、すなわち能力を定義の対象にした。この操作には理由があった。存在していないものは、量として測れない。しかし能力は現在に存在する。存在するなら、観測でき、育成でき、配分できる。VFIが原理的に成立しうるのは、対象が能力だからである。

問題は、現在の測定制度が、能力の側をほとんど見ていないことにある。

023の4.4で述べたとおり、価値の三層構造において、測定の容易さは包含関係と逆順に並ぶ。財務価値は日次で測れる。企業価値は市場が評価する。未来価値を測る制度は、まだ整っていない。放置すれば、経営の注意は必ず下へ引き寄せられる。人は、測られている場所を見るからである。第一原理の第二項は Future Value Precedes Enterprise Value. と述べる。企業価値の前に、未来価値がある。しかし現実の経営では、順序が逆に見える。理由は単純である。後に来るものだけが、数字になっているからである。

AI時代に、この問題は一段深刻になる。

AIの民主化により、業務効率の改善はどの企業でも達成できるようになりつつある。効率化の成果は財務諸表に早く出る。つまり、財務指標の上では、多くの企業が似た姿になる。023の思考実験で見たとおり、決定的な差が財務に現れるまでには数年を要する。その数年のあいだ、財務諸表は二社を区別しない。

だから私たちは、財務が同じに見える企業のあいだの差を説明する言語を必要としている。VFI は、その言語の候補である。

2 通説とその限界 — 既存の指標は、なぜ未来価値創造能力を測れ

ないのか未来価値を測る指標が要るという主張には、当然の反論がある。既存の指標で足りるのではないか、という反論である。ここで、主要な指標を一つずつ検める。いずれも優れた指標である。限界が生じるのは、未来価値創造能力の代わりに使ったときである。

ROE と ROIC資本収益性の指標である。投じた資本が、どれだけの利益を生んだかを示す。経営規律の道具として、これらの有用性は疑いない。

しかし構造を見ると、分母は既に投じられた資本であり、分子は既存事業の利益である。つまり両者とも、確定した事業構造の運用効率を測っている。効率は、構造が変わらない前提の下でしか比較できない。

ここに逆説が生まれる。未来価値を創る投資は、分母を増やし、分子を減らす。新しい能力への投資は、当面は費用だからである。能力を高める行動をとるほど、資本収益性は下がる。 指標が正しく機能するほど、企業は未来価値から遠ざかる。

PBR株価純資産倍率は、簿価と市場評価の差を示す。差の部分に無形の何かがあるという直感は、方向としては正しい。

ただし PBR が示すのは、市場の期待の水準である。期待は、企業の能力だけで決まらない。情報の伝わり方、業種への評価、語られている物語に左右される。そして PBR は、差の中身を分解しない。何が期待されているのかは、数値の外側にある。

期待の表示を、能力の測定と取り違えてはならない。期待は、能力より速く動き、能力より速く消える。

時価総額結果の最たるものである。023の三層構造でいえば第一層、財務価値に属する。市場が、その時点の情報でつけた値である。

未来価値の測定として使えない理由は明快である。時価総額は、未来価値が創造された後に動く。原因ではなく結果を見ている。結果を目標に据えれば、企業は表示を動かす行動を選ぶ。

ESGスコア方向としては、最も近い位置にある。財務諸表に載らないものを評価しようとする点で、問題意識を共有している。

しかし測っている対象が違う。ESG評価の多くは、開示の充実度と体制の整備度を中心に構成されている。開示は過去の記録であり、体制は静的な構造である。方針を定めたか。委員会を置いたか。数値を公表したか。これらは重要だが、能力そのものではない。

さらに ESG は、企業行動の適正さを扱う枠組みである。適正であることと、新しい価値を創れることは、別の能力である。

無形資産評価ブランド価値の算定、知的財産の評価、人的資本の開示。いずれも精緻化が進んでいる。

023の通説3で述べたとおり、これらはすべて過去の活動の蓄積である。ブランドとは、これまでの約束が守られてきたという記録である。特許とは、研究が到達した地点の記録である。蓄積は資産であり、資産は保有されている。

未来価値は、保有されているものではない。これから何を生み出せるかという能力である。無形資産は未来価値の材料になりうる。しかし、材料と能力は違う。倉庫の中身を数えても、料理人の腕は分からない。

五つに共通する限界五つの指標は、同じ限界を共有している。

第一に、いずれも結果の側を測っている。何かが起きた後に観測される量である。第二に、いずれも既存の事業構造を所与としている。構造が書き換わった瞬間、比較の基盤が失われる。第三に、いずれも更新の速度を持たない。ある時点の水準を示すが、その水準がどれだけの速さで変わりつつあるかを示さない。

未来価値創造能力の測定は、この三点をすべて反転させなければならない。結果ではなく原因を見る。構造そのものの書き換えを見る。水準ではなく、水準の変化を見る。

「測れない」と「測っていない」は違うここで、より根本的な反論に答える。未来価値のようなものは、そもそも測れないのではないか、という反論である。

歴史を見れば、この主張は繰り返し立てられてきた。そして繰り返し覆されてきた。

ブランドは、かつて測れないものだった。企業の看板に値段をつけるという発想自体が、真面目に扱われなかった。いまは複数の算定手法があり、会計基準の議論の対象になっている。組織文化も、測れないものの代表だった。いまは従業員エンゲージメントとして調査され、経営指標の一つとして扱われる。技術力も同じである。特許の被引用や研究開発の生産性という近似が生まれた。顧客との関係も、推奨意向という一つの問いに圧縮された。

これらの近似が完全だと言うつもりはない。どれも誤差を含み、批判もある。しかし、測り始めたことによって決定的に変わったことが一つある。それらが経営会議の議題になった。

ここから読み取るべきことは何か。測定の歴史は、測れなかったものが測れるようになった歴史ではない。測る価値があると誰かが決めた対象に、近似が与えられてきた歴史である。順序は、技術が先ではない。意思が先である。

したがって「未来価値は測れない」という言明は、多くの場合、事実の記述ではない。それは「まだ誰も測ろうとしていない」の言い換えである。そして測ろうとしない限り、近似は永久に生まれない。

ただし、留保を一つ置く。近似は誤差を含む。誤差を隠した指標は、測らないことより有害である。だから指標を提案する側には、その限界を同時に述べる義務がある。本章は、その義務を第5節で果たす。

3 再定義 — VFI とは何か

図III-3 VURA Future Index(VFI)が測るもの

3.1 正典が与えているもの

まず、原典の記述を正確に引く。Book1る。

第7章は、次のように述べていVFI とは、企業の現在価値ではなく、未来価値創造能力を評価するための指標である。財務諸表だけでは見えない企業の可能性を可視化する。

正典が与えているのは、この三点である。対象は未来価値創造能力である。対比は現在価値であり、VFIはそれを測らない。役割は可視化である。名称は VURA Future Index であり、略記は VFI である。正典に書かれているのは、ここまでである。算定式も、重み付けも、点数の基準も、原典には存在しない。

したがって本章は、この三点を出発点として、指標としての設計をここで具体化する。以下に述べる設計原則と評価の観点は、本章で新たに提案するものである。 既存の定義として扱ってはならない。以降の章は、この提案を参照してよい。

3.2 設計の四原則(本章で提案する)

第一原則 — 実績ではなく、能力を測る。

実績は過去に属する。能力は現在に属する。過去の実績が高い企業が、いま能力を持っているとは限らない。むしろ、大きな成功の直後は能力が停止しやすい。企業再定義成熟度モデル(Enterprise Redefinition Maturity Model: ERMM)のレベル2を思い出したい。「根本的には変わらないまま、ますます効率的になっていく」状態である。それは実績が良好なときに最も起きやすい。実績を測る指標は、この状態を検出できない。

第二原則 — 水準だけでなく、更新の速度を測る。

能力は静止しない。前提が陳腐化する速度が上がる時代には、能力の絶対水準よりも、その水準が更新される速さが重要になる。高い能力を持ちながら更新が止まっている企業と、低い水準から急速に更新している企業では、五年後の位置が入れ替わりうる。

したがって VFI は、ある時点の写真として設計しない。現在地と、その更新速度の二軸で捉える。

これは第一原理の第五項と対応する。

Learning Is the Ultimate Competitive Advantage. 学び続ける能力が最大の競争優位である。

第三原則 — 単一の合成得点を作らない。

VFI が可視化する対象は、FVCC すなわち未来価値創造能力である。そして FVCC の式は掛け算である。掛け算の性質を、合計や平均は再現できない。一項がゼロでも、他項が高ければ合計点は高く出る。それは指標として誤りである。

だから VFI は、七項のプロファイルとして表示する。一つの数値へ潰さない。 見るのは、最小の項と、その分布の形である。合成得点を求める圧力は必ず生じるが、応じてはならない。

第四原則 — 測らないものを、明示する。

指標の信頼性は、何を測るかと同じだけ、何を測らないかによって決まる。境界を書かない指標は、いずれ万能を騙る。

3.3 VFI が測らないもの

本章は、次の五点を測定の対象外として明示する。

将来の利益を測らない。それは将来利益予測の仕事であり、023で述べたとおり未来価値とは扱う範囲が違う。現在価値、株価、時価総額を測らない。それらは第一層、財務価値に属する。企業の倫理的な適正さを測らない。それは重要だが、別の枠組みの仕事である。経営者個人の資質を測らない。VFIが見るのは、個人ではなく企業の能力である。そして、業種を越えた優劣を測らない。適正な水準は、事業の性質と環境によって異なるからである。

最後の点は、企業再定義成熟度モデルの注記と同じ趣旨である。最高段階への最速到達を目的にしてはならない。VFIは、企業を並べるための道具ではない。自社の現在地を知るための道具である。

3.4 誰が、いつ測るのか

出発点は自己評価である。外部の評価機関が測る前に、経営陣が自社について測る。理由は二つある。

第一に、七項の多くは、外部から観測できる情報が乏しい。悪い情報が経営に届く速さや、却下された案件の理由は、外部の資料には現れない。第二に、指標の目的が診断だからである。診断は、患者本人の申告なしには成立しない。

頻度は年に一度でよい。能力は四半期では動かないからである。動かないものを頻繁に測れば、測定の誤差を能力の変化と誤読する。そして、頻度の高い測定は必ず短期化を招く。

第II巻 019で示したとおり、評価は経営陣が各項を五段階で行い、合計点は見ない。見るのは二つだけである。最小の項と、評価者間で最も評価が割れた項である。前者は着手点を示す。後者は、経営陣が同じ会社を見ていない証拠であり、しばしばこちらのほうが深刻である。

4 構造 — FVCC の七項を、どう見るか

VFI が可視化する対象は、次の式である。

FVCC = Purpose × Learning × Redefinition × AI Integration × Ecosystem ×Capital Allocation × Trustこれが FVCC Formula である。Future Value Creation Capability、すなわち未来価値創造能力を規定する。掛け算であることを、ここでも確認する。七項のうち一つでもゼロなら、能力は全体としてゼロになる。補完は効かない。

VFIは、この七項に一対一で対応する。以下、各項について「何を見れば、その能力の有無が分かるか」を示す。これらの観点は、本章で提案するものである。

Purpose。 見るべきは、掲示された文言ではない。却下の記録である。目的に合わないという理由で断った案件が、この一年にいくつあったか。目的は、案件を通す理由として使われているあいだは実在しない。落とす基準として働いたときに、初めて実在する。もう一つの観測点は、資本配分の議事録に目的が現れる頻度である。年頭の挨拶にしか現れないなら、それは経営の変数になっていない。

Learning。

知識の量ではない。前提が更新された回数である。昨年の意思決定のうち、今年になって撤回または修正されたものはいくつあるか。撤回がゼロの組織は、学習していないか、学習を隠している。どちらであっても問題は同じ深さにある。加えて、失敗の記録が残され、後から参照されているかを見る。記録のない失敗は、学習ではなく損失である。Redefinition。 見るべきは、自社の事業定義の文言が、何年前に書かれたものかである。そして、この数年で捨てたものがあるか。再定義とは、新しいものを足す行為ではない。何を守り、何を手放すかを決める行為である。もう一つの観測点は、再定義がプロジェクトとして扱われているか、恒常的なプロセスとして埋め込まれているかである。この差が、企業再定義成熟度モデルのレベル3とレベル4を分ける。

AI Integration。 導入率でも、投資額でも、利用者数でもない。見るべきは、AIが返した時間の行き先である。AIによって空いた時間が、報告資料の増産に充てられているなら、Future Time(未来時間)は増えていない。もう一つは、AIの出力を一件ずつ確認する運用になっているか、システム全体を設計する層があるかである。前者は処理量が増えるほど破綻し、後者は処理量が増えるほど強くなる。Human-on-the-Loop Management とは、AIの監視ではなく、システム全体の設計を指す。Ecosystem。

提携先の数ではない。共同で設計している関係の数である。取引は、条件が変われば終わる。共同設計は、相手の意思決定にこちらが組み込まれている状態を指す。判定は、相手の側から見て行うとよい。自社が抜けたとき、相手は同等の代替を容易に見つけられるか。容易であれば、それは取引である。

Capital Allocation。 予算の総額ではない。構成比の、前年からの変化である。023で述べたとおり、予算表は、その企業がどの未来を選んだかの記録である。構成が去年とほとんど同じなら、その企業は去年と同じ未来を選んだことになる。もう一つの観測点は、投資回収期間を示せない案件が、この一年に何件通ったかである。一件も通っていないなら、その企業は未来価値を排除する装置を内蔵している。なお、ここでいう資本には、人、時間、知識、信頼を含む。財務資本は八つの資本の一つにすぎない。Trust。

顧客満足度でも、評判の指標でもない。最も鋭い観測点は、悪い情報が経営に届くまでの時間である。信頼の高い組織では、悪い知らせが速く上がる。低い組織では、悪い知らせは加工されて遅れて届く。もう一つは、約束の履行である。信頼は、守られるたびに増える。第一原理の第八項が Trust Compounds Faster Than Capital. と述べるとおり、増え方が他の資本と違う。だからこそ独立の項として立つ。

二軸で見る七項のそれぞれについて、水準と更新速度の二軸で見る。水準は現在地を示す。更新速度は、その現在地がどちらへ、どれだけの速さで動いているかを示す。

二軸にする理由は、経営判断が両者で変わるからである。水準が低く、更新も止まっている項は、最優先の着手点である。水準が高く、更新が止まっている項は、最も危険な項である。過去の成功が、そのまま将来の硬直になる場所だからである。水準は低いが更新が速い項は、資本を追加すべき場所である。

一つの数値では、この区別がつかない。VFIを合成しない理由は、ここにもある。

5 実像 — 指標は、経営を歪める

ここまで指標を設計してきた。次に、指標がもたらす害について述べる。設計した側が述べなければ、誰も述べないからである。

グッドハートの法則経済学者チャールズ・グッドハートに帰される言明がある。ある指標が目標になったとき、それは良い指標ではなくなる。 測定が行動を変え、変わった行動が指標と実体の対応を壊すからである。

この法則は、VFI の七項すべてに適用される。具体的に見る。

Learning を撤回件数で測れば、撤回が量産される。実質を伴わない方針変更が、学習の証拠として提出されるようになる。Ecosystem を共同設計の関係数で測れば、中身のない覚書が増える。Capital Allocation を新規領域の比率で測れば、既存の案件が新規に見えるよう分類し直される。重要なのは、これらが不正ではないということである。測られるものが最適化されるのは、組織の正常な機能である。 悪意を前提にした対策では防げない。指標そのものの設計で対処するしかない。

四つの対処(本章で提案する)

第一に、合成しない。 単一の得点は、最適化の標的として最も扱いやすい。どこを上げても総合点が上がるからである。七項のプロファイルは、操作の費用が高い。七つの異なる性質の観測点を同時に偽装することは、実際に能力を上げるより難しい場合がある。

第二に、評価と報酬に接続しない。 人事評価に接続された瞬間、最小の項は正直に報告されなくなる。VFIの最大の価値は、最小の項を見つけることにある。その価値を、接続は破壊する。診断の道具は、診断のためにだけ使う。

第三に、指標そのものを定期的に再定義する。

観測点は必ず陳腐化する。観測点が知られ、最適化され、実体との対応を失うまでの時間は、有限である。だから私たちは、指標の陳腐化を前提として設計する。企業再定義の対象に、指標自身を含める。指標だけが再定義を免れる理由はない。

第四に、数値の隣に、必ず記述を置く。

各項の評価には、その根拠となった出来事を一つ添える。どの案件を、どの理由で却下したか。どの前提を、いつ撤回したか。記述を伴わない数値は、独り歩きする。記述を伴う数値は、議論の対象になる。VFIの目的は結論を出すことではなく、議論を起こすことである。

経営会議での実像これらを踏まえた運用の姿を描く。

年に一度、経営陣がそれぞれ独立に七項を評価する。集計は行うが、平均は取らない。一枚の紙に、七項について評価の分布をそのまま並べる。会議で扱う論点は二つだけである。最も低い項はどれか。最も評価が割れた項はどれか。

最も低い項については、そこに今年の資本が向いているかを確認する。掛け算である以上、最小の項が全体を決めるからである。他の項を伸ばしても、値はほとんど動かない。

最も割れた項については、なぜ割れたのかを聞く。同じ会社を見ている経営陣が、同じ能力について異なる評価を持つことは起こりうる。しかし、その差の理由は語られなければならない。差の理由を語る過程で、しばしば、誰も知らなかった事実が出てくる。

この会議は、二時間で終わる。しかし、この二時間で扱われたものは、四半期の業績会議では一度も扱われない。

留保最後に、限界を述べる。

VFIは発展途上の指標である。未来価値創造能力を数値化する試みは進行中であり、財務指標のような精度と比較可能性には、まだ達していない。企業間の比較に用いるには、観測点の定義と評価者の訓練が足りない。現時点で確実に有用なのは、同一企業の、時系列での比較である。また、七項の観測点は、本章が提案するものであって、唯一の解ではない。より良い観測点が見つかれば、置き換えるべきである。指標の目的は、指標を守ることではない。企業の現在地を正しく映すことである。

6 経営者への問い

本章で確定させたことを要約する。

VFIとは、企業の現在価値ではなく、未来価値創造能力を評価するための指標である。財務諸表だけでは見えない企業の可能性を可視化する。ここまでが正典の記述である。本章はここから先を設計した。すなわち、実績ではなく能力を測ること。水準だけでなく更新速度を測ること。単一の合成得点を作らないこと。測らないものを明示すること。そして FVCC の七項に対応する観測点を与え、指標が経営を歪める危険への対処を置いたこと。これらは本章の提案である。

ROE も ROIC も PBR も時価総額も、優れた指標である。しかし、いずれも結果の側を測っている。ESGスコアと無形資産評価が測るのは、開示と蓄積である。未来価値創造能力は、そのどれとも違う場所にある。この理解に立つとき、経営者は三つの問いに向き合う。

問い1 — 七項のうち、自社で最も低い項はどれか。そこに、今年の資本は向いているか。

答えられないなら、まだ測っていない。そして測っていない項は、たいてい最も低い項である。人は、見たくない場所に目盛りを置かない。問い2 — 自社が本当に測るべきものを、測れないという理由で議題から外していないか。

測れないという言葉は、しばしば、測る意思がないことの丁寧な表現である。ブランドも文化も技術力も、かつては同じ言葉で議題から外されていた。先にあるのは技術ではなく、意思である。

問い3 — いま自社が最適化している指標は、何を犠牲にしているか。すべての指標は、何かを見えなくする。四半期利益を最適化する企業は、十年後の事業の芽を犠牲にしている。この問いに答えられない経営は、指標に経営されている。

三つの問いは、いずれも「良い点数をどう取るか」を聞いていない。何を見るべきかを、誰が決めているのかを聞いている。

指標は、経営の道具である。しかし道具は、使う者の視野を静かに規定する。財務指標だけを見続けた企業は、財務指標に現れるものだけを経営してきた。それは怠慢ではない。見えるものを経営するのは、合理的な態度である。

だから、変えるべきは態度ではない。見える範囲である。

VFIとは、見える範囲を一段広げる試みである。未来価値は、財務諸表に載らない。載らないものを経営の中心に置くには、載らないまま議論できる形が要る。その形を与えることが、指標の役割である。

完全な指標は、まだない。おそらく当分は現れない。しかし、不完全な近似を持つ経営と、何も持たない経営は違う。測れないものを測ろうとした企業だけが、測れないものを経営できる。

本章のまとめ

  • VURA Future Index(VFI)とは、現在価値ではなく未来価値創造能力を評価する指標である。
  • 実績ではなく能力を測る。水準だけでなく更新の速度を測る。単一の合成得点は作らない。
  • FVCC の七項に一対一で対応させ、最小の項と分布の形を読み取る道具として用いる。
  • VFI を人事評価に接続してはならない。診断の道具は、診断のためにだけ使うべきである。

重要概念

VURA Future Index(VFI)/Future Value Creation Capability(未来価値創造能力)/Future Value(未来価値)/企業再定義成熟度モデル/Human-on-the-Loop Management

関連概念

Future Value Creation Capability → VURA Future Index → Capital Allocation → Future Value

関連する第一原理

Principle 2 — Future Value Precedes Enterprise Value. Principle 3— Capital Exists to Create Possibility. Principle 5 — Learning Is the Ultimate Competitive Advantage. Principle 8 — Trust Compounds Faster Than Capital.

関連する章

  • 第III巻 023「未来価値とは何か?」— 指標が測ろうとしている未来価値の定義は、この章にある
  • 第III巻027「Future Value Management(未来価値経営)とは?」— VFI を経営の様式へ組み込む
  • 第V巻 044「企業再定義成熟度モデル(ERMM)とは?」— もう一つの診断軸として併用できる
  • 第IV巻 032「投資家は未来価値をどう評価するのか?」— 外部からの評価との接続を扱う

関連論文・既刊

  • Kadowaki, N. (2026). Future Value Theory: A Management Framework for Enterprise, Capital, and Society in the Age of AI. VURA Working Paper. SSRN: https://ssrn.com/abstract=7120980 / Zenodo: https://doi.org/10.5281/zenodo.21255662
  • Kadowaki, N. (2026). Enterprise Redefinition: Toward an Enterprise Evolution Theory for the Age of AI. VURA Working Paper.(Zenodoにて公開。SSRNは審査中)
  • 『AI時代の経営100の問い』#065「AI時代、未来価値は測れるのか?」/#062「AI時代に伸びる会社は、見ている数字が違う」

次に読むべき章

→ 第III巻 027「Future Value Management(未来価値経営)とは?」

第III巻 未来価値理論

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